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名古屋地方裁判所 平成7年(ワ)4102号 判決 1997年5月16日

原告

三浦誠記

被告

松枝正樹

ほか二名

主文

一  被告松枝正樹及び被告新田自動車株式会社は、原告に対し、各自金五一〇七万四一六二円及びこれに対する平成四年九月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告日本火災海上保険株式会社は、原告の被告新田自動車株式会社に対する右判決が確定したときは、原告に対し、金五一〇七万四一六二円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用中、参加によつて生じた部分はこれを六分し、その一を原告の負担とし、その余を補助参加人の負担とし、その余はこれを六分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

五  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

1  被告松枝正樹及び被告新田自動車株式会社は、原告に対し、各自金五九九七万八〇二一円及びこれに対する平成四年九月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告日本火災海上保険株式会社は、原告の被告新田自動車株式会社に対する右判決が確定したときは、原告に対し、金五九九七万八〇二一円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、友人が運転する車両に同乗中に交通事故に遭遇して負傷した被害者が、右友人に対し自賠法三条、民法七〇九条により、右車両の保有者に対し自賠法三条により、それぞれ損害賠償を求めるとともに、右車両につき損害保険契約を締結している保険会社に対し、車両の保有者に対する判決が確定することを条件として、損害賠償金の支払を求めた事件である。

一  争いのない事実等

1  原告は、左記の交通事故に遭遇し、頭部外傷Ⅲ型(外傷性くも膜下出血)の傷害を負つた。

(1) 日時 平成四年九月二八日午後一〇時三〇分ころ

(2) 場所 岐阜県高山市岡本町二丁目一七四八番地の一先道路上

(3) 加害車両 普通貨物自動車(岐四五ね三八九三)

(4) 右運転者 被告松枝正樹

(5) 右同乗者 原告

(6) 被害車両 軽四貨物自動車(飛騨四〇あ五三七)

(7) 右運転者 小林好太郎

(8) 態様 被告松枝が運転し、原告が同乗していた加害車両が走行中、右カーブを曲がり切れず、加害車両はスリツプして対向車線に進入し、同車線を走行中の被害車両と衝突した。

(1の事実は、被告松枝との間では争いがない。被告新田自動車株式会社(以下「被告新田自動車」という。)及び被告日本火災海上保険株式会社(以下「被告日本火災」という。)との間では、原告の傷害の内容及び(8)を除き争いがなく、右傷害の内容は甲一三により、(8)の事実は甲一五によりそれぞれ認める。)

2  治療の経過

原告は、前記傷害の治療のため、平成四年九月二八日から同年一一月一七日まで高山赤十字病院に五一日間、同年一一月一七日から平成五年四月一八日まで浜松労災病院に一五三日間の各入院をし(通算入院期間二〇三日)、その後、同年四月一九日から平成六年四月五日までの間に浜松労災病院に実日数七一日、同年四月二二日から同年八月二二日までの間に高山赤十字病院に実日数六日、同年八月三日から平成七年一月一八日までの間に浜松労災病院に実日数一〇日、同年一月一四日に磐田脳神経外科病院に実日数一日の各通院をした(甲四、五の1ないし3、六の1ないし23、七、八の各1ないし3、九の1ないし10、一〇、原告)。

3  後遺障害

原告の傷害は、平成五年一二月一四日に症状固定となつたが、原告には、言語障害、複視、左筋力低下、体幹失調、記銘力障害、頻尿の障害が残り、自動車保険料率算定会浜松調査事務所は、原告の右障害につき、自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表六級該当の認定をした(甲一三、一四の1、2、原告)。

4  責任原因

(一) 被告松枝

被告松枝は、加害車両を運転し、同車を自己のために運行の用に供していた者であるが、加害車両を運転するに当たり、道路が右に曲がる場合には、減速徐行して対向車線に進入しないよう進行すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り、漫然減速徐行せずに進行した過失により、右カーブを曲がり切れず、対向車線に進入して本件事故を発生させたものであり、第一次的に自賠法三条に基づき、第二次的に民法七〇九条に基づき、本件事故により原告が被つた損害を賠償する義務がある(争いがない。)。

(二) 被告新田自動車

被告新田自動車は、本件事故当時加害車両を所有していた(争いがない。ただし、被告新田自動車が加害車両の運行供用者であつたか否かについては、後記のとおり、争いがある。)。

(三) 被告日本火災

被告新田自動車は、被告日本火災との間で、加害車両を被保険自動車として、自動車損害賠償責任保険契約及び自動車総合保険契約(以下「本件各契約」という。)を締結していた(争いがない。)。

5  損害の顛補

原告は、本件事故による損害の顛補として、被告日本火災から一二九八万九五五一円(争いがない。)、神谷聖から七一万一九四〇円(丙三)の各支払を受けた。

二  争点

1  被告新田自動車の自賠法三条による賠償責任及び被告日本火災の支払義務の有無

(一) 被告新田自動車及び被告日本火災の主張

(1) 被告新田自動車は、神谷聖から自動車の修理を依頼され、神谷に対し代車として加害車両を無料で貸し渡したところ、神谷は、被告松枝に対し加害車両を無断転貸し、被告松枝が運転中に本件事故が発生したものであり、被告新田自動車には加害車両の運行支配も運行利益も存在しないから、被告新田自動車は加害車両の運行供用者に該当せず、原告に対し自賠法三条による賠償責任を負わない。

したがつて、被告日本火災にも、被保険者を被告新田自動車とする損害賠償額の支払義務はない。

(2) また、被告松枝は、右のとおり、加害車両の無断転借人であるから、本件各契約における許諾被保険者には該当せず、したがつて、被告日本火災には、被保険者を被告松枝とする損害賠償額の支払義務もない。

(二) 原告の主張

被告新田自動車は、神谷に対し、被告松枝又は神谷以外の第三者が加害車両を運転することについて、明示又は黙示の承諾を与えた。

2  無償同乗等による損害賠償額の軽減

(一) 被告松枝の主張

原告と被告松枝とは、短大の同級生で、同じ学生寮に居住し、一緒に趣味のエレキバンドを結成していた親しい友人同士であつて、日頃、互いに自動車を貸し借りしたり、一緒にドライブをしたりする関係にあり、本件事故も、バンド練習を終えて学生寮に帰る目的で、偶然に被告松枝が加害車両を運転していた間に発生したものであり、しかも、原告は、被告松枝がかなりのスピードを出していたにもかかわらず、危険も感じず、被告松枝に対し注意を与えることもしなかつたのであるから、これらの事情を考慮すると、被告松枝が賠償すべき原告の損害額については、減額すべきである。

(二) 被告新田自動車及び被告日本火災の主張

被告新田自動車において神谷に対する代車の貸出しに当たつたのは、岩田清和であるが、同人は貸出しの正当な権限を有していなかつたものであり、また、原告は、自らも承知の上で神谷から加害車両の無断転貸を受け、運転に当たつては神谷が同乗していなかつたことなどの事情を考慮すると、被告新田自動車及び被告日本火災が賠償すべき原告の損害額については、減額すべきである。

(三) 原告の主張

原告には、事故発生の危険が増大するような状況を現出させたり、事故発生の危険が極めて高い客観的事情が存在することを知りながら同乗したというような、事故発生につき非難すべき事情は存在しないから、損害額を減額すべき根拠はない。

3  原告の損害額

原告は、本件事故により、治療費一四六万七八三七円、入通院付添看護料二七万六五〇〇円、入院雑費二八万五六〇〇円、文書料一万二三六〇円、通院交通費三万一一六〇円、患者輸送費二八万六三〇〇円、付添人交通費二二万九六四五円、眼鏡代金四万〇一七〇円、入通院慰謝料二九一万円、逸失利益五〇九二万八〇〇〇円、後遺障害慰謝料一一五〇万円、弁護士費用五〇〇万円の損害を被つた旨主張する。

第三争点に対する判断

一  争点1について

1  証拠(甲一五、証人神谷聖、同岩田清和、原告、被告松枝正樹)によれば、次の事実が認められる。

(一) 原告、被告松枝及び神谷は、共に高山短期大学に在籍し、岐阜県高山市内の同じ学生寮に居住し、楽器演奏を趣味とする音楽仲間であつた。

(二) 神谷は、中西勝造との間で交通事故を起こし、損傷した神谷所有の車両の修理を被告新田自動車に依頼し、本件事故当日の夕方、右車両の修理期間中の代車として同被告から加害車の提供を受け、これを右学生寮の駐車場に駐車させていた。

(三) 原告、被告松枝及び神谷は、本件事故当日、高山市内の貸しスタジオで楽器演奏の練習をするため、他の友人一名と共に右スタジオへ行くことになつたが、加害車が最も道路に出しやすい場所にあつたので、加害車を使用することとし、また、被告松枝の希望により、同被告が加害車を運転し、原告、神谷及び他の友人一名が同乗して右スタジオへ向かつた。

(四) 右スタジオでの楽器演奏の練習が終わつた後、原告らは学生寮に帰ることになつたが、神谷は、右練習中に右スタジオに来た同人の女友達の車両を運転して学生寮に帰ることになつたので、被告松枝は往路に引き続いて加害車を運転し、原告及び他の友人を同乗させて右スタジオを出発し、その五分ないし一〇分後に神谷が運転する車両が出発し、加害車の後を追つた。本件事故は、その途中で発生した。

(五) 被告新田自動車は、自動車修理等を営業目的とする会社であり、同被告において営業を担当していた従業員の岩田清和は、中西から代車を神谷に対し提供するように依頼され、被告新田自動車所有の加害車を神谷に提供したが、その際、神谷の身元を確認することもなく、また、神谷に対し、同人以外の者が加害車を運転することを制限するような指示もしなかつた。

2  右によれば、被告新田自動車は、その営業の一環として、加害車を顧客である神谷に貸与し、右貸与に当たり、加害車を誰が使用するのかについて関心を持たず、神谷に対しその使用につき何らの制限もしなかつたのであり、しかも、被告松枝は、神谷の承諾を得て加害車を運転したものであるから、右のような事実関係の下では、被告新田自動車は本件事故につき運行供用者としての責任を負うものというべきである。

したがつて、被告日本火災は、原告の被告新田自動車に対する本判決が確定したときは、原告に対し損害賠償額を支払う義務がある。

二  争点2について

被告松枝主張のような事情があるからといつて、被告松枝が賠償すべき原告の損害額を減額すべきものということはできず、また、被告新田自動車所有の加害車を被告松枝が運転するに至つた経緯は前記一の1のとおりであつたことに照らせば、被告新田自動車及び被告日本火災が賠償すべき原告の損害額を減額すべきものということもできないから、争点2についての被告らの主張はいずれも失当である。

三  争点3について

1  治療費(文書料一万二三六〇円を含む。) 一一四万七七二一円

(一) 症状固定前

証拠(甲二の1ないし5、四、六の1ないし23)によれば、原告は、症状固定(平成五年一二月一四日)前の治療費として、高山赤十字病院において六七万四一四九円、浜松労災病院において四二万二〇六二円の治療費を要したことが認められる。

(二) 症状固定後

証拠(甲七、八の各1ないし3、九の1ないし10、一〇)によれば、原告は、症状固定後の治療費として、浜松労災病院において四万四〇七〇円、高山赤十字病院において六四八〇円、磐田脳神経外科病院において九六〇円の治療費を要したことが認められる。

2  入院付添看護料 二二万九五〇〇円

証拠(甲一四の1、2、一七、原告)によれば、原告は、高山赤十字病院に入院中の五一日間は昏酔状態であり、この間、原告の肉親が付き添つたことが認められ、右付添の費用は一日当たり四五〇〇円と認めるのが相当であるから、その合計は二二万九五〇〇円となる。

3  入院雑費 二二万一〇〇〇円

原告は、前記のとおり、通算二〇三日間入院をしたものであり、その間に要した雑費は、当初の九〇日につき一二〇〇円、その余の一一三日につき一〇〇〇円と認めるのが相当であるから、右雑費の合計は二二万一〇〇〇円となる。

4  通院交通費 三万〇七八〇円

証拠(原告)によれば、原告は、浜松労災病院に通院するため、一日につき三八〇円の交通費を要したことが認められるから、右通院合計八一日間の通院交通費の合計は三万〇七八〇円となる(磐田脳神経外科病院への通院交通費を認めるに足りる証拠はない。)。

5  患者輸送費 二八万六三〇〇円

証拠(甲一一の1ないし3)によれば、原告は、平成四年一一月一七日に高山赤十字病院から浜松労災病院への輸送を受けるにつき、二八万六三〇〇円の費用を要したことが認められる。

6  付添人交通費 二二万四六四五円

証拠(甲一七、原告)によれば、原告の肉親は、高山赤十字病院に入院中の原告に付き添うため、合計二二万四六四五円の交通費を要したことが認められる(原告主張の浜松労災病院分五〇〇〇円については、付添いの必要性を認める証拠がないから、認められない。)。

7  眼鏡代 四万〇一七〇円

証拠(甲一六)によれば、原告は、本件事故により破損した眼鏡の調達代金として四万〇一七〇円を要したことが認められる。

8  入通院慰謝料 二三〇万〇〇〇〇円

前記の原告の傷害の程度、入通院の経過等に照らせば、原告の入通院慰謝料の額は二三〇万円と認めるのが相当である。

9  後遺障害逸失利益 四七〇四万五五三七円

証拠(原告、被告松枝)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、昭和四八年八月二六日生まれで、本件事故当時は高山短期大学整備科の学生であり、平成五年一二月一四日の症状固定時は二〇歳であつたことが認められるから、賃金センサス平成五年第一巻第一表産業計・企業規模計・男子労働者・短大卒の該当年齢層の平均賃金三〇三万円を基礎とし、就労可能年数を四七年、労働能力喪失率を六七パーセントとして、ホフマン方式により中間利息を控除して、原告の逸失利益の本件事故当時の現価を求めると、四七〇四万五五三七円(3,030,000×0.67×(24.1263-0.9523)=47,045,537)となる。

10  後遺障害慰謝料 一〇五〇万〇〇〇〇円

前記の原告の後遺障害の程度に照らせば、後遺障害慰謝料の額は一〇五〇万円と認めるのが相当である。

以上によれば、原告の損害額の合計は、六二〇二万五六五三円となり、右金額から既払の一三七〇万一四九一円を控除すると、その残額は、四八三二万四一六二円となる。

四  弁護士費用

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は、二七五万円と認めるのが相当である。

(裁判官 大谷禎男)

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